2007年12月29日土曜日

いいわけなどしない酒―池波正太郎を歩く―

  堀部安兵衛④(毎日新聞:平成19年12月26日須藤靖貴)に、人生を簡潔に表現した次の言葉があった。
  「人生いろいろある。敬した先輩や親しんだ女性に裏切られることも、最愛の人や恩師の死に立ち会うことも。そんな時、安兵衛のような男は、背筋を伸ばして酒を呑む。亡き父の『何事にも見苦しき、いいわけはせぬぞ』という遺言を思い出しつつ……。」
  人生には、いつどこで、どんな形で、苦しみ、悲しみに遭遇するかわかりません。
  もちろん親身になって励ましてきた人や交際していた人に裏切られることだってあります。そんなとき、深く落ち込み、塞ぎこみ、もう誰にも親切にはしないと思ったりするものです。裏切りは絶対に許さないという感情を抑えきれないでいると凄惨な事件を引き起こしてしまいます。最愛の人との死別が突然起きたときなどは、当分立ち直れない日々が続くのは当然のことです。現実を受容するのは、口でいうほどた易いことではありません。気が変になってしまう人だっています。
  これは、自分の因縁がそうさせているものではないのか。自分も人を裏切ったことはないのか。自分でそんなことはないと思っていても、ひょっとしたら相手を傷付け、落ち込ませていたことがあったのかもしれない。今の自分の苦しみは、その投影なのだと思うことができると、必ず立ち直れるような客観的な動きや状況が出てきます。何度となく、悩んだあげく、こだわりの心を捨てることができたとき、心のどん底から立ち直っていく道筋が開けます。
  落ち込んだとき、塞ぎこんだとき、感情の高ぶりを押さえられないときに、自分の心を少しでも冷静に理性ある行動へ導こうとする一つの方法としては、まず自分の家の仏壇の前に座ることです。自分を生んでくれた両親、そして先祖の前で、いいわけしなければならないような自分にはなりたくないですね。安兵衛のように、背筋を伸ばして酒を呑んでもかまわない、どんなとき、どんなことでも、本当に見苦しいいいわけをしないでよい人になって立ち直りたいですね。

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