先日、「御にほひ立」なる品(左の画像)を頂いた。最初、この品名を見たときは、どんなものなのか見当がつかなかった。和紙で包まれた紙箱の蓋を開けたら、強い「御香のにおい」が部屋中に漂った。ここで初めて「御にほひ」とは、「御香のにおい(にほひ)」のことなのだと気付いた。
箱のなかには、桐板で作られた切り立った三角形の小箱が入っていた。表面に季節の絵が描かれた二枚の桐板(縦11cm横7.5cm)の裾近くの内側に切り込みがあり、そこに巾3cmの桐板を差込み、倒れないように固定してある。
この三角形の裾部分の空間に小さな引き出しがあり、そのなかに「御香袋」が入っている。「御香のにおい」は、ここから発散されていたのだ。なるほど、御香のにおいが立っている桐板から発散しているので「御にほひ立」というのか。また「御香のにおいが立ち上る」という意味も掛けているのかもしれない。
また、この鋭角の三角形の組み立て方は、感謝と相手を敬う心を表す「合掌」の姿でもあるという。つまり、中空金剛合掌の掌形を抽象的にデザイン化した形なのだろう。
2面の桐板の各表面に描かれている季節絵は、「中秋の名月と薄」と「春爛漫の桜」で、それぞれ型彫り技法の絵付けされている。これとは別に、夏・冬の風物絵を描いたものがあり、2組で四季揃えとなっているらしい。
これまで、御香のにおいを漂わせるものとして和服の着物に忍ばせる「匂い袋」や修験者等が所持する黒檀又は紫檀の「香合(塗香入れ)」は知っていたが、この「御にほひ立」についてはまったく知らなかった。
これは、部屋に置いて楽しむものらしく、香りの詰め替えもあるようで、今流行りのアロマに対抗して作られた新案意匠なのかもしれない。
なお、発売元は松栄堂(京都市)だが、私が仏間で常時使用している名香「好文木」の発売元は梅栄堂(堺市)なので、その店名は松と梅の違いこそあれ、実によく似ている。共に関西を代表する御香の老舗である。
玄関の下駄箱の上に「御にほひ立」を置いた。箱を開けたときほどの強いにおいはなく、ほのかに漂う程度である。外から玄関に入ってきたとき、きっと、このにおいで心身が清められることだろう。
ときどきパソコンの前に持ってきたりもしているが、ただ置いておくだけでよいので、まったく手がかからず御香のにおいを楽しむことができる。多忙で疲れきっている現代人にはピッタリの癒しの品となるのかもしれない。
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